Two as One

 その電車はそれまで私が乗ったことのない、座席が向かい合わせになっている、旅番組によく出てくる田舎のそれのような電車で、私はふと「銀河鉄道の夜」の一節を思い出していた――「気がついてみると、さっきから、ごとごとごとごと、ジョバンニの乗っている小さな列車が走りつづけていたのでした。」
 私は、正面の席に腰を下ろし、闇に沈んだ窓の外をながめている私に「そうだ、ぼくたちはいま、いっしょにさそって出掛けたのだ」とふざけて声をかけた。きんいろをした月明かりの中に街の明かりらしいものがちらちらとおどって、消えて、またおどった。私はその様子から目を離さずに、「もうあんなに後ろに行ってしまった」とぽつりと言った。
 私はがたがたと音を立てて大きく窓を開けた。すると私も同じように窓を開けて、外に大きく身を乗り出した。「危ないよ」と私が言うと、私は「私が平気なら平気だもの」と答えて電車の行く方を目を細めて見つめた。放たれた窓からびゅうびゅうと吹き込む風は冷たく、かすかな永遠のにおいがした。
 私が、「向こうに背の高い、黒いものが見えるよ」と叫んで頭を引っ込め、ひとつ身震いをした。私は寒かったので、マフラーをとって私に巻いてやった。私ははにかむように子どもっぽく笑って、「ありがとう」と言った。私はうなずいて、さっきの私と同じようにして窓の外に身を乗り出した。おそらく私が見た時よりもずっと大きく見える黒いものが、ぬっと電車の行く先に林立していた。
 私はそこを通り抜ければ電車が止まることを知っていた。私が知っているとは思わなかったけれども、私の知っていることは私も知っているのだ。それで私はもう何かを言うことができず、私もだまったままマフラーの編み目を指先でいじっていた。
 やがて電車は枯れ果てた骸骨の群れの中に滑り込み、あらゆるものの集まる野原をめざしてしずしずと行った。骸骨はどこまでもどこまでも続くように思えた。今では風はなく、私と私はこれがほんものの永遠のにおいなのだと思っていた。
 ふと私が立ち上がり、私の腕を強くつかんで「ねえやっぱりもどらないと」とまっすぐに言った。それからもう腰のところまで外に身体を押し出して後ろの方を見ながら、「お母さんとね、お父さんと、お姉ちゃんもいるよ。もどらないと」と泣き出しそうに言ったので、私はうん、うん、とうなずいてぽろりと涙をこぼした。
 私と私はふたりで抱き合うようにしながら電車から飛び降り、黒いがりがりの手を伸ばす骸骨からいちもくさんに走って逃げた。電車はするすると後ろへ走って行ってしまい、私が一歩木立ちから抜け出してふりかえると、もう見えなくなっていた。私は息を切らしながら、私の一歩後ろでほどけたマフラーを巻き直していた。
 「行こう」と私が言うと、私は「あとからついて行くよ」と赤い顔に冷えた手のひらを当てながらうなずいた。私はずんずんと歩いて、私は私の後ろにぴったりとくっつくようにして歩いた。私と私はいくつもの街の明かりを横目で見ながら通りすぎ、ずっと先の方でひときわ強くかがやく光に向かった。
 やがてだんだんと私は私のあたたかさや息づかいを感じなくなった。けれども私は私が私の後ろからちゃんとついて来ていることを知っていた。
 そして私と私は街に帰りついた。

 目が覚めてみると私は私を見、聞き、話をして、ふたりでながいながい道のりを歩いたことを、どうしてか夢だと思った。私はいないのだ。私はただひとりで帰ってきたのだと、私が言った。

――終。




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