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『セックスと嘘とビデオテープ』という映画がある、らしい。わたしはよく知らない。見たことがないので。でもたぶん有名な映画なんだろうなぁとは思う。……どっちかっていうと、内容よりタイトルの方が口に出やすいからかも。 古典的名作を持ち出したのは、別にわたしが映画マニアだからでもなんでもなく、つまり今の状況にはその刺激的な言葉の羅列がよく似合うんじゃないかなと思っただけ。今の状況っていうのは要するに、一週間前に七泊八日レンタル、百八十円(その日は半額だったので)で借りてきたビデオテープがひとり孤独な上映会をしてて、観客になるはずだったわたしと彼氏がカウチでベタベタイチャイチャしている(正確にはセックスではないけど)、というものだ。しまった、『嘘』ってのがどこにもない。まぁいいか。 さておき、正直なところわたしと彼氏はかなり、マジメな話とっても、いいムードだった。明日が休みだというのも、このムードを作るのにはプラスに働いたにちがいない。当然、わたしたちは明日はこのわたしの家でごろごろして過ごす予定なので寝不足になる心配もない。 久しぶりの幸福感に浸っていると、テレビの方から落ち着いた、ムーディな音楽が流れてきた。冴えてるじゃない、レンタルビデオのクセに。わたしは彼氏にぎゅっと腕を回しながら、そんなことを考えていた。彼氏の方も盛り上がってきてるみたいで、背中をそっとなでながら、何度か深くキスをしてくれた。ああ幸せ。 わたしはもちろん、彼氏だってそのまま最後まで行くつもりだった。むしろここまで来てるカップルを止めるような馬鹿がいるなら、馬に蹴られて死ぬべきだと思う。しかし――得てして、邪魔って言うのは入るもので。 ピンポーン、と限界のチャイムが鳴る音が、わたしの耳にはちゃんと聞こえた。でも無視した。宅急便なら後で取りに行きますから、とっとと帰ってくださいって気分だった。彼氏にも目配せして、気にしないようにうながす。彼氏はうなずいた。 が。 ピンポーン、ピンポーン、ピンポ… エンドレスで続けられるチャイムに、さすがにキレそうになった。というか、明らかにわたしのやる気も彼氏のやる気も切れた。彼氏は舌打ちしてわたしから離れ、わたしは内心宅急便だったらクロ○コヤ○トと差し違えてやる勢いでどかどかと玄関に歩いていった。ハーイ、といかにも不機嫌そうに低い声でうめき、玄関を開けた。すると、 「寿司だ、寿司を食いに行くぞ!」 一学年上の先輩(男)が出てきた。わたしはドアを閉め―― 「コラ待て閉めんな」 ようとして、ドアとドア枠の隙間に足を挟み込まれたためにできなかった。チッ。しかたなく先輩を部屋の中に入れてあげると、わたしはまたどかどかリビングにもどった。先輩は、わたしの後を寿司だ寿司だと言いながら付いてきていた。どうでもいいけど、この人はそれ以外に考えることないんか。 リビングでは彼氏がビデオを止めて、テレビのバラエティを見ていた。大しておもしろくなさそうな顔だった。イイトコロで邪魔されたのがよっぽど気に入らないんだろう。わたしだってそうだし。 彼氏は先輩を見ると、ものすごく嫌そうな顔をした。しかし先輩は気づかないで、また寿司を食いに行こうと言った。 「バイト代が入ったからおごってやる!」 しかし今度はその手に白い封筒があった。ド真ん中に堂々と、『給料』などと書いてある(ちょっとアヤシイ感じのする)封筒だ。時間はちょうど夕食時だった。 わたしと彼氏がさっきまでの不機嫌もどこへやら、ははーっとばかりに先輩についていったのは言うまでもない。
先輩が連れて行ってくれたのは国道沿いの回転寿司だった。回転寿司と言っても結構ネタはしっかりしてたし、なにより奢りだったからわたしと彼氏は食いまくった。たぶん、明日の昼ぐらいまでなにも食べなくていいくらい。 ――終。
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